大沼のガン・カモ類(その2)
「大沼のガン・カモ類(その1)」の項では、彼らの体の特徴やくちばし各位の名称について触れましたが、ここでは筆者が長年観察してきた経験から、彼らの春と秋に見られる渡りについて、私見を交えて紹介したい。
渡りの中継地としての大沼
北海道において、ガン・ガモ類の渡りの中継地として有名なのが苫小牧市のウトナイ湖で、その理由は、コハクチョウ・マガン・オオヒシクイ等、北海道を中継地として道外へ向けて南北に渡りをするガン・ガモ類と、オオハクイチョウ・ヒシクイ等、北海道を中継地にして道外へ向けて東西に渡りをするガン・ガモ類が、共通で飛来する中継地としてウトナイ湖が利用されているからです。
このウトナイ湖から大沼までは直線距離にして約112kmの距離になりますが、このことは飛翔力が強く長距離を飛ぶことに適しているガン・ガモ類にとっては近すぎるようです。すなわち渡りのルートを高速道路に例えると、利用者全員が一時停車する料金所がウトナイ湖で、利用者一部が休息するパーキングエリアが大沼ということになります。
春の渡り
春の大沼は、2月下旬から北上するガンカモ類の姿を観ることができます。先ず、開氷面が小沼の船場町(JR大沼駅裏)沖に現われます。このあたりは水深が浅いので湖中に発電所の取水用水路が掘られ、取水より速い水流が生じるため、いちはやく開氷面が出現します。この開氷面にカワアイサ、ミコアイサと少数のヒシクイが羽を休めに飛来します。
3月中旬から下旬がガン・カモ類の渡りのピークとなり、一年中で最も大沼が賑やかになり、小沼の3/4が開氷している時期になります。この時期に最も多くみられるのがオナガガモで、ピークには約2,000羽が羽を休めます。このオナガガモに混じってヒヨドリガモ・ホシハジロ・トモエガモ・コガモ等もやってきます。マガモ・カルガモの羽数もこの頃が一番多いようです。一方、オオハクチョウ・コハクチョウは10~70羽の群れが15組ほど羽を休めるものの、大沼上空を通過していく群れの方が圧倒的に多く、マガンにおいてはほどんと立ち寄らないといった状況です。
日本各地で越冬したガン・カモ類は、マガン・ヒシクイを除けば人間に対する警戒心は弱いはずですが、面白い事に小沼では警戒心が強くほどんと近寄る事ができません。これは恐らく、越冬地を離れた途端に本来の野生を取り戻しているからだと考えられます。これらのガン・カモ類は入れ替わりが激しく、大沼での滞在期間は、平均1~2日と推測されますが詳細は良く解かっていません。また、秋とは違い、春の渡りはピークはあるもののダラダラと5月上旬まで続く傾向があります。
秋の渡り
秋の大沼は、ガン・カモ類の渡りの南下ルートから少し外れているのではないかと思われます。それは秋期におけるハクチョウ・マガンの観察記録が皆無であり、オオハクチョウも越冬個体と思われるもののほか観察されていないからです。このため、大沼におけるオオハクチョウの初認日は通年、ウトナイ湖より1週間~2週間ほど遅くなります。
また、ヒシクイは小数ながら蓴菜沼で確認される程度で、オナガガモも観察数が春期に比し極端に少ない傾向にあります。一方で、ホシハジロ、ヒドリガモ、コガモ、カワアイサ、ミコアイサ等は毎年確認されています。
狩猟期間(10月1日~1月31日)になると、鳥獣保護区(大沼・小沼・蓴菜沼の湖上は特別鳥獣保護区になっています)に猟区から非難してくるカルガモ、マガモがいるようで、解禁日を境にしてこれらの確認数が著しく多くなります。この時期、日没1時間過ぎになると大沼から国道5号線の大沼トンネル付近(このあたりは、通称「鳥越」といわれている)の上空を飛び、大野平野や大沼周辺の水田地帯へ20~100羽程度の群れで次々と飛来し、落ち穂や収穫前の籾を採餌しています。
【寄稿】日本鳥類標識協会 田中正彦