熊の湯のおこり(峠下地区)
今はなき温泉にまつわる伝説
むかし、峠下のコタン(村)に住む一人のアイヌの若者が、寒さとふぶきが続く日に、えものを探して、山奥深くは入り込みました。すると、谷の奥には、ほとんど雪がなく、どこからかさかんにゆげが立ちのぼっているのです。ふと後ろを見ると、そこには大ぐまが入浴していました。若者はたいそうおどろき、岩かげにかくれ、毒矢を放ちましたが、矢は熊には当たらず、おこった熊は、若者におそいかかってきました。
若者はとっさに腰に巻いてあったマキリをぬいてくまをやっつけたものの、熊の爪にかかり、その湯に倒れてしまいました。やがて気がついた若者は、先ほどみた模様を思い出し、ためしに自分も入浴したところ、湯のききめはいちじるしく、しばらくすると、さしもの重傷も全快したと言う事です。
「ななえの歴史と伝説」より